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AIは食肉衛生検査の現場を救うか?

掲載日:2025.06.10

日本では、消費者の食卓に届く全ての食用動物は、獣医師が衛生検査をしています。ところが獣医師も職業の偏在があり、多くの地方自治体では、公務員獣医師の数が足りていない現状があります。
このような中、コンピューター視認システム(Computer Vision System)と人工知能(Artificial Intelligence)技術による画像診断技術(以下、CVS/AI技術)は、食肉検査・食鳥肉検査のうち、生体検査や解体後検査等の補助システムとして、検査員獣医師の負担軽減に寄与するものと期待されています。

私達の研究グループでは、厚生労働省科学研究費事業で、国内の食肉検査・食鳥肉検査におけるCVS/AI技術応用の可能性について検証しています。食肉検査におけるCVS/AI技術が獣医師による検査を補助する手段となる可能性を示すことで、システム開発・導入に向けたフィージビリティスタディ(実現可能性を事前に調査・検討すること)に進むことができます。

本研究で構築される技術基盤をベースとして、将来的に食肉検査の補助システムが開発されるならば、獣医師による検査負担の軽減、検査の平準化、食肉検査のさらなる付加価値創成を目指す取り組みを実施する時間の創出など、現行の食肉検査における多くの課題の克服が期待されます。

また、生産動物の生産、と畜、流通に至る情報のデジタル化による一元管理により、「農場から食卓まで」の包括的な食肉衛生管理体制の構築への発展も期待されます。と畜現場での検査負担の軽減に伴い新たに創出される時間を、病原微生物あるいは化学物質などの高度な検査の実施、検査データを活用した生産現場の衛生管理支援など、より高水準で食肉衛生を担保する取り組みに充当することで、公務員獣医師による獣医事の社会価値のさらなる向上につながる可能性もあります。あるいは創出される時間を調査研究活動に充当するなど、獣医師を志す学生たちを公衆衛生分野に引き付ける魅力ある活動の実施も期待できます。

読売新聞
出典:読売新聞(2025年4月14日)
https://www.yomiuri.co.jp/science/20250414-OYT1T50084/