つながるエクステンション

敵の敵は味方 !? 〜ファージの力を利用して細菌と戦う戦略〜

獣医生化学 岩野英知

掲載日:2022.01.24

さて、新型コロナウイルスによる感染症が蔓延して社会が大きく変貌してきている状況ですが、実は、薬が全く効かない薬剤耐性菌というものが世界中、我々の身近なところであふれているのをご存知でしょうか?
私たちは、細菌(バイ菌)が体に入ってきて病気になったら、抗生物質(薬)によって簡単に治る、それは当たり前だと思っていると思います。しかし、今や薬に耐性を獲得した薬剤耐性菌は着実に広がっており、このまま何も対処しないと2050年にはガンの死亡者を超えて年間に1000万人以上の死者が出ると予測されています。

さて、どうしましょう〜?

我々は、細菌の天敵であるウイルス(バクテリオファージ:動物や植物の細胞には感染しない)で対抗する治療法を研究しています。そう、生物の教科書にある、あの宇宙船型のようなファージです。細菌とファージは、地球上でおよそ30億年近く戦い続け、お互いを進化させて生き延びてきました。今こそ、我々は細菌の敵であるファージと手を結び、その力を借りて対抗することも考えるべきなのです。

写真1では、透明な丸い部分があると思います、ファージが数十万もの細菌を殺して、そこが透明の穴のように見えています。そこには細菌を殺しきったファージ達が数百万もいるのです。
我々は、薬の効かない細菌によって苦しんでいる動物達をファージで治療して助ける臨床試験に取り組んでいます。これは日本初の取り組みです。

写真2は、耳の中が細菌に犯されて苦しんでいるイヌにファージ治療を行なっているものです。ファージによる治療が成功し、元気になりました。

このファージ治療を、獣医療、人医療で広く使われるようにするために、学生と一緒に開発を進めています。自分達の研究開発が世の中を変えて行く、そんな研究を一緒に楽しみましょう!

写真1.5か国からの研修生を対象とした 実習。シャーレの中に、透明な部分が!

写真2.抗菌薬で治癒しない犬にファージ治療を行っているところ